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親子上場という言葉をご存じでしょうか?
親子上場とは親会社と子会社がともに上場していることを言います。
アメリカでは、あまり親子上場の例はなく、日本独特のものと言われます。
これは、1980年代以降、子会社上場が親会社の資金調達手段として多用されたことが要因です。
また、東京証券取引所も優良子会社の上場を促していた時期があった。
ただし、昨今では親子上場の解消も相次いでいます。
一方で、ソフトバンクグループやGMOインターネットグループ、イオングループのように、親子上場を積極的に行っている会社もあります。
この記事では、
- 親子上場の何が問題点なのか?
- 親子上場のメリット・デメリットとは?
- 親子上場を行う会社はどういった方針で行っているか?
などについての私なりに調査した結果について、お伝えしたいと思います。
なお、親子上場には、大きく
- 子会社が上場する
- 上場後の株式取得などによって親会社が新たに生ずる
の2パターンがあります。
親子上場の問題点
親子上場において問題とされるのは少数株主の利益の保護です。
アメリカで親子上場がないのは、この少数株主の権利に対して意識が高いことが背景にあると言われています。
少数株主とは…
ある子会社の株主の中で、過半数の株式を保有している親会社の持分以外の部分を所有している株主のこと。
少数とありますが、これは持っている株式数が少ないという意味ではありません。
1単位以上の株式を持つ単独株主とは区分されて、一定以上の割合または一定数以上の株数を保有する株主を指すのが一般的です。つまり、過半数を持っている親会社ほどではないけど、結構な株式を保有している株主、といった意味です。
もし仮に、過半数の株式を保有している親会社が、企業グループとしての利益を優先した場合、上場子会社に不利益になるような経営判断する可能性があります。
そのような場合であっても、親会社が過半数の株式を押さえてしまっているため、少数株主がその決定を覆すことは難しいです。
そのため、企業統治において少数株主の意見が尊重されにくく、少数株主に対する利益相反となるケースが予想されるので、一般的に親子上場は望ましくないとされています。
東京証券取引所の親子上場に対する見解
親子上場に対する東京証券取引所の見解に関しては、支配株主及び実質的な支配力を持つ株主を有する上場会社における少数株主保護の在り方等に関する中間整理を見ると良いでしょう。
掻い摘んで説明すると…
子会社上場については、一律に禁止することは適当ではないものの、投資者をはじめ多くの市場関係者にとっては必ずしも望ましい資本政策とは言い切れない。
そのため、新規に上場を目指す子会社及びその親会社は、子会社上場の特性を十分に考慮のうえでその方針を決定することが望ましい。
とされています。
そして、それを踏まえて、子会社の上場審査に際しては、次のような基準を設けています。
東京証券取引所の子会社上場に係る上場審査の基準
上場しようとする子会社は、次の1から3までの基準やその他の事項から、親会社からの独立性を有する状況にあると認められる必要があります。
- 上場しようとする子会社が事業内容などを踏まえ、事実上、親会社などの一事業部門と認められる状況にないこと
- 上場しようとする子会社と親会社などが、グループ外の第三者と取引を行う際の条件と著しく異なる条件での取引など、子会社または親会社などがどちらか一方の不利益となる取引行為を強制又は誘引していないこと
- 上場しようとする子会社の出向者の受入れ状況が、親会社などに過度に依存しておらず、継続的な経営活動を阻害するものでないと認められること
グループ外の第三者との取引と比べて、子会社と親会社との取引は、取引条件の決定が恣意的に行われる可能性があります。
そのような場合、親会社や子会社の株主の利益が損なわれる可能性があります。
そのため、グループ間取引の条件が第三者との取引条件と同様であるかを確認します。
また、親会社が自らの利益や他の子会社の利益を優先させるために、子会社に不利な取引などを強制したり、事業活動を阻害したりしないかも確認されます。
親子上場のメリット
そんな親子上場ですが、まだ親子上場を継続したり、新たに上場する子会社があるということは、親子上場にもメリットがあるということです。
親会社・グループにとってのメリット、上場する子会社にとってのメリットをそれぞれ説明します。
親会社・グループにとってのメリット
- 子会社の株式の一部を市場に放出することで、現金を得ることができる
- 上場することで、子会社株式の価値が増加する
- 子会社が独立した上場会社になることで、子会社に対する資金や人的な負担が軽減する
子会社にとってのメリット
- 子会社自体の信用力の向上が期待できる。その結果、子会社独自の人材採用や資金調達が可能になる
- 親会社からの独立性が高まることで、経営の自由度が増す
- 子会社従業員のモチベーションアップにつがなる
親子上場のデメリット
一方で、デメリットもあります。
少数株主にとってのデメリットは、前述の親子上場の問題点で挙げた通り、親会社・グループの利益を優先される可能性があるということです。
ここでは、新たに、親会社・グループにとってのデメリット、上場する子会社にとってのデメリットをそれぞれ説明します。
親会社・グループにとってのデメリット
- 親会社の子会社への支配力が弱まることで、グループ全体の経営判断に遅れやブレが生じる
- 子会社の利益がグループ外部に流出してしまい、企業価値が割り引かれる
子会社にとってのデメリット
- 子会社にも上場基準のガバナンスが要求されることになるので、内部管理体制のコストが増える
- 親会社にとって不要な人材や不採算部門の受け皿になる可能性がある
- 親会社の業績が悪い時に子会社の利益を親会社に付け替えるようなインセンティブが働く
親子上場解消の流れについて
今まで見てきたことと重複する部分はありますが、次のような状況を背景に、親子上場解消の流れが進んでいます。
- 子会社の配当が親会社以外の株主に流出することでグループとしての収益力が低下する
- 子会社であっても重要事項の決定のために株主総会の招集が必要となり、グループ企業の迅速な意思決定ができない
- 子会社の収益力が親会社を上回ることによる資本のねじれによる買収リスクがある
親子上場を解消するためには、子会社株式を他社に売却して資本関係の解消をする、または、株式公開買い付けによって完全子会社化する、というパターンがあります。
東京証券取引所によると、上場している親会社をもつ上場企業は2006年には400社を超えていましたが、2021年末 には279社となり、3割以上減りました。
親子上場解消の例
2020年
伊藤忠商事 ー ファミリーマート(全株式買取→上場廃止)
NTT ー NTTドコモ(全株式買取→上場廃止)
2022年
凸版印刷 ー トッパン・フォームズ(完全子会社化)
日立製作所 ー 日立建機(保有株の約半分を外部に売却)
親子上場の一覧・親子上場銘柄について
親子上場・子会社上場の事例①:イオングループ
イオングループは、グループ方針として、積極的に親子上場を行っています。
理由としては、下記のような考えがあるようです。
経営の自立意識が高まる
非上場の子会社なら、経営陣は親会社におうかがいを立てて意思決定しがちです。
しかし、上場すると、親会社以外にも多くの株主が存在することで、経営陣にも緊張感が生まれ、自立心が育ちやすくなります。
将来のグループ幹部を鍛える
上場企業のトップになると、損益計算書やバランスシートなどに精通し、投資家向け広報を通じて投資家とも向き合う必要があり、鍛えられます。
親子上場は、グループ全体の時価総額の拡大につなる。
収益力が低い事業が足を引っ張って、強い事業の実力が十分に評価されないコングロマリットディスカウントというものが存在します。
親子上場にすることで、各分野で上場する子会社が評価されやすく、価値が埋没しにくいと考えられます。
その他にも、次のような効果があります。
- 経営陣や社員の士気向上、知名度の向上による優秀な人材の確保
- 子会社だからこそ親会社やグループの資源を活用しやすい
親子上場・子会社上場の事例②:GMOインターネットグループ
代表の熊谷さんは、GMOインターネットグループを永続する企業グループとするために、次の3つの点を掲げています。
- 同じフィロソフィや価値観が持てるパートナーが集結し、新しい時代に挑める組織を構築する
- 長期的なゴールは大きく、短中期的には環境の変化に合わせ柔軟に対応する
- 上場により資金調達や人材調達・モチベーション付加で成長領域における競争力を強化する
この3つ目が、今のGMOインターネットグループの親子上場のスタイルを示していると考えられます。
GMOインターネットグループ企業の子会社上場を進める目的としては、大きく次の3つがあると考えられます。
- 資金確保
- 人材確保
- モチベーション維持
親子上場を進めた結果、2019年11月末の上場10社の時価総額の総計は約1兆7500億円です。
このうち、GMOインターネットは約3325億円を占めます。
Withコロナによる成長加速の期待から時価総額総計は年初来で87%増加しました。
ただし、親会社は42%増にとどまっています。
グループ9社の親会社であるGMOインターネットの持分相当額は6000億円を超えており、親会社の評価はバリュエーション的に大幅なディスカウントの状態になってしまっています。