
パワーリフティングのトレーニングにおいて、常に限界まで重量を追い求め続けることは不可能です。強くなるためには、あえて強度を落とす「ディロード」の活用が不可欠です。
本記事では、ディロードの重要性から具体的な実践方法、食事の管理まで徹底的に解説します。
パワーリフティングのディロードとは?
ディロードとは、トレーニングの強度(重量)やボリューム(セット数・回数)を一定期間意図的に減らすことで、蓄積した疲労を取り除き、身体の適応(超回復)を促進させるプロセスを指します。
パワーリフティングでは、高重量による神経系の疲労や関節への負担が大きいため、定期的なディロードを取り入れないと、オーバートレーニングに陥り、挙上重量の停滞や怪我を招くリスクが高まります。
ディロードの具体的なやり方と目安
ディロードはただ休むのではなく、「身体を動かしながら回復させる」のが一般的です。
ディロードの目安
ディロードを行うべきサインを見逃さないことが大切です。
以下の項目に当てはまる場合は、ディロードを検討しましょう。
- 以前は挙がっていた重量が重く感じる。
- 関節(膝、腰、肘など)に違和感や痛みがある。
- 睡眠の質が低下している、または寝ても疲れが取れない。
- トレーニングに対するモチベーションが著しく低下している。
ディロードの頻度・タイミング・期間の決め方
ディロードの頻度
一般的には4週間〜8週間に1回が目安です。
- 初級者: 8〜12週間ごと(回復力が早いため)。
- 中・上級者: 4〜6週間ごと(扱う重量が重く、神経系の疲労が大きいため)。
ディロードのタイミング
最も効果的なのは、「ピーキングプログラムの終了後」や「試合終了後」、または「メインセットの挙上スピードがあからさまに落ちた時」です。
また、仕事や私生活が忙しく、回復にリソースを割けない時期に戦略的にぶつけるのも賢い選択です。
ディロードの期間
通常は1週間(7日間)を1サイクルとします。
疲労が非常に激しい場合は10日間ほど取ることもありますが、1週間あればほとんどの場合、神経系と関節の回復には十分です。
ディロード期間の重量設定とトレーニングボリュームの管理
ディロード期間の重量設定
もっとも一般的な基準は、「通常時の強度の50%〜60%」に設定することです。
- 普段 100kg でセットを組んでいる場合、50kg〜60kg で行います。
- RPE(自覚的運動強度)で表すと、RPE 5〜6程度に抑えます。
ディロード期間のトレーニング
重量だけでなく、「ボリューム(セット数)」も普段の半分程度に減らします。
- メイン種目: フォームの確認に徹する。
- 補助種目: 種目数を減らすか、完全にカットする。
- 意識すること: 筋肉を追い込むのではなく、血流を促進させて老廃物を流し、関節を休める感覚で行ってください。
ディロード期間中の食事のポイント
「動かないから食べない」のは間違いです。
- 摂取カロリー: メンテナンスカロリー(現状維持のカロリー)を死守します。減量(アンダーカロリー)にしてしまうと、組織の修復が進みません。
- タンパク質: 筋肉の合成を維持するため、通常通り体重1kgあたり2g程度を摂取します。
- 炭水化物: グリコーゲンの充填のためにしっかりと摂取しましょう。
ディロードの種類:アクティブレスト vs 完全休養
多くのパワーリフターには、「アクティブ・ディロード(低強度でのトレーニング)」を推奨します。
完全に休んでしまうと、ディロード明けに神経系が「眠った」状態になり、高重量への感覚が狂いやすいためです。
【実践編】ディロード重量・ボリューム算出ガイド
ディロード期間中に「どれくらいの重さで、何回やるべきか」を迷わないための具体的な基準表です。ご自身の現在の1RM(最大挙上重量)を当てはめて計算してみてください。
ディロード設定の計算式
パワーリフティングにおける標準的なディロード設定は以下の通りです。
- 重量(強度): 1RMの 50%〜60%
- セット数: 通常時の 50%(例:普段4セットなら2セット)
- レップ数(回数): 通常時の 50%〜60%(例:普段8回なら4〜5回)
ディロード自動算出・早見表
以下は、1RM(最大挙上重量)ごとのディロード実施例です。
| 1RM(最大重量) | ディロード時の重量 (50-60%) | セット・レップ数の目安 |
| 100kg | 50kg 〜 60kg | 2〜3セット × 4〜5回 |
| 140kg | 70kg 〜 85kg | 2〜3セット × 4〜5回 |
| 180kg | 90kg 〜 110kg | 2〜3セット × 4〜5回 |
| 220kg | 110kg 〜 130kg | 2〜3セット × 4〜5回 |
| 260kg | 130kg 〜 155kg | 2〜3セット × 4〜5回 |
「軽すぎる」と感じるかもしれませんが、それで正解です。
ディロードの目的は筋肉に刺激を与えることではなく、「フォームの軌道を確認しながら、血流を促して疲労を抜くこと」にあります。
1週間のディロード・ルーティン例
普段週4回トレーニングしているリフター向けの、具体的なメニュー構成案です。
| 曜日 | 内容 | 意識するポイント |
| 月 | スクワット Day | メイン重量の50%でフォーム確認。補助種目はカット。 |
| 火 | ベンチプレス Day | 肩周りの動的ストレッチを念入りに行い、低重量で実施。 |
| 水 | オフ(完全休養) | 軽い散歩やストレッチのみ。 |
| 木 | デッドリフト Day | 腹圧の入れ方を再確認。セット数は最小限に。 |
| 金 | オフ(完全休養) | 睡眠時間を1〜2時間増やす意識を持つ。 |
| 土 | 全身・調整 Day | 3種目を非常に軽い重量で触り、動作の最終確認。 |
| 日 | オフ(完全休養) | 翌週からの高強度に備え、エネルギーを蓄える。 |
ディロード中の「体感」の目安(RPEの活用)
重量で計算するのが難しい場合は、RPE(自覚的運動強度)を活用しましょう。
- 通常トレーニング:RPE 8〜9(あと1〜2回挙がる限界付近)
- ディロード:RPE 4〜5(あと5〜6回は余裕で挙がる、かなり軽い状態)
「あと数回やりたい」という気持ちをグッと抑えてジムを後にすることが、ディロードを成功させるコツです。
ピーキングプログラムとディロードの関係性
ピーキングとディロードは、「緊張(ピーキング)」と「緩和(ディロード)」の関係です。
- ピーキングで身体に強いストレスを与え、強くなるためのきっかけを作る。
- ディロードでそのストレスから回復させ、実際の挙上重量として結実させる。
この連動がうまくいくと、試合当日に「身体が驚くほど軽い」「重さを感じない」という最高の状態(ピーク)を迎えることができます。
パワーリフティングのプログラムとは?
パワーリフティングのプログラムは、単なる「筋トレメニュー」ではなく、「特定の期日に向けて能力を積み上げていく設計図」です。
一般的には「期分け(ピリオダイゼーション)」という考え方に基づき、以下の3つのフェーズを数ヶ月かけて移行します。
| フェーズ | 目的 | 特徴 |
| 筋肥大期 (Hypertrophy) | 土台となる筋肉量を増やす | 低重量・高ボリューム(8〜12回) |
| 筋力期 (Strength) | 筋肉を動かす神経系を鍛える | 中重量・中ボリューム(3〜6回) |
| ピーキング期 (Peaking) | 1発の最大挙上重量に特化させる | 高重量・低ボリューム(1〜3回) |
ピーキングプログラムとは?
パワーリフティングにおけるピーキングプログラムは、試合当日に自分の持てる最大筋力を100%(あるいはそれ以上)発揮させるための最終調整フェーズです。
「ただ重いものを持つ」のではなく、疲労とパフォーマンスの関係を科学的にコントロールする技術が求められます。
疲労を抜いてパフォーマンスを最大化する(フィットネス疲労理論)
ピーキングを理解する上で最も重要なのが「フィットネス疲労理論」です。
パフォーマンス = フィットネス(能力) − 疲労
- フィットネス: トレーニングによって得られた筋力や技術。
- 疲労: 激しい練習で蓄積した肉体的・精神的な疲れ。
試合直前は、ハードな練習により「フィットネス」も高いですが、「疲労」も最大値に達しています。
ピーキングの目的は、「フィットネスを維持しつつ、疲労だけを急激に取り除く」ことで、隠れていた真のパフォーマンスを表に出すことにあります。
試合前の「テーパリング」としてのディロード
ピーキングとディロードは、パワーリフティングの計画において「対(ペア)」になる概念であり、その関係を一言で言えば「ディロードはピーキングを完成させるための最後のピース」です。
この2つを別個のトピックとしてではなく、連続した一つのプロセスとして理解することが重要です。
ピーキングとディロードの構造的な関係
パワーリフティングのプログラム全体で見ると、ディロードはピーキングという大きなフェーズの「最終段階(フィナーレ)」に位置づけられます。
- ピーキング(3〜4週間)
- 高重量に身体を慣らし、技術的な精度を極限まで高める「調整期間」
- ディロード(試合前1週間)
- ピーキングで蓄積した最後の疲労を抜き、爆発力を解放する「仕上げ期間」
つまり、「ディロードのないピーキングは、疲労でガス欠を起こし、ピーキングのないディロードは、ただ身体がなまるだけ」という関係性です。
フィットネス疲労理論での役割
前述の「フィットネスー疲労理論」に当てはめると、両者の役割の違いが明確になります。
| フェーズ | フィットネス(能力) | 疲労(ダメージ) | 結果(パフォーマンス) |
| ピーキング中 | 最大化される | 蓄積される | 疲労に隠れて見えない |
| ディロード中 | 微減・維持される | 急激に減少する | 一気に向上する(ピーキングの成功) |
ピーキングの後半(試合1〜2週間前)は、人生で最も重い重量を扱っているため、身体はボロボロの状態です。
このタイミングで戦略的なディロード(テーパリング)を挟むことで、蓄積された疲労の霧が晴れ、研ぎ澄まされた筋力が表面化します。
これを「スーパーコンペンセーション(超回復)」と呼びます。
ピーキングにおける「ディロードの質」の変化
通常のトレーニングサイクル(筋肥大期や筋力期)で行うディロードと、ピーキングの最後に行うディロードでは、その目的とやり方が少し異なります。
通常のディロード
- 目的: 蓄積疲労のリセット。次のサイクルへ向けて心身を休める。
- 方法: 重量もボリュームも大幅に落とす(50〜60% 1RM程度)。
ピーキング最終週のディロード(テーパリング)
- 目的: 「重さの感覚」を維持しつつ、疲労だけを抜く。
- 方法: 強度はあまり落とさず、ボリューム(セット数・回数)を極端に落とす。
- 例:試合の3日前まで、試合の第1試技に近い重量を1回だけ触る(シングル)。
- これにより、神経系をアクティブに保ったまま、筋肉と関節の回復を待ちます。
なぜ「ピーキング明け」にもディロードが必要か
試合(ピーキングの頂点)が終わった直後も、必ずディロードが必要です。
試合は肉体的な限界だけでなく、アドレナリンによる精神的・神経的な消耗が激しいため、試合後の1〜2週間を「アクティブ・リカバリー(積極的休養)」に充てることで、次の長期プログラムにスムーズに移行できます。
ディロード明けに注意すること
ディロードが終わった直後のトレーニングでは、以下の点に注意してください。
- いきなりMAXに挑戦しない
- 身体は回復していますが、重い重量に対する「感覚」が少し鈍っていることがあります。
- 1週目は通常の80〜90%程度の負荷から徐々に感覚を戻しましょう。
- フォームの変化を確認する
- 疲労が抜けたことで、以前よりスムーズに動けるはずです。良い感覚を定着させるチャンスです。
- 過剰なボリュームを避ける:
- 身体が軽く感じても、いきなりセット数を増やしすぎないよう注意しましょう。急激に負荷を戻すと、ディロードで解消したはずの疲労が即座に再蓄積してしまい、次のピークを作るための余力がなくなってしまいます。
ディロードに関してよくある質問(FAQ)
ディロードを取り入れる際、多くのリフターが疑問に思うポイントをQ&A形式でまとめました。
Q1. ディロード中に筋肉が落ちたり、弱くなったりしませんか?
A1. 1週間程度のディロードで筋肉が落ちることはありません。 むしろ、筋肉の修復が進み、グリコーゲン(エネルギー源)が充填されるため、ディロード明けには以前よりも出力が向上するケースがほとんどです。筋肉の減少(萎縮)が始まるのは、トレーニングを完全に2〜3週間以上休止した場合といわれています。ディロードは「弱くなる期間」ではなく「強く戻るための準備期間」と捉えましょう。
Q2. ディロード期間中に有酸素運動をやってもいいですか?
A2. 散歩や軽いサイクリング程度のアクティブリカバリー(積極的休養)なら、むしろ推奨されます。 低強度の運動は血流を促進し、疲労物質の除去を早めてくれます。ただし、息が切れるような激しいランニングやHIIT(高強度インターバルトレーニング)などは、関節や神経系に負担をかけ、回復を妨げる可能性があるため避けましょう。
Q3. 「今週は調子がいい」と感じても、計画通りディロードすべきですか?
A3. 原則として、計画通りに実施することをおすすめします。 パワーリフティングの疲労、特に神経系や関節の疲労は「自覚症状が出る一歩手前」で蓄積していることが多いからです。調子が良い時にディロードを行うことで、その好調な状態をさらに高いレベルで維持し、怪我のリスクを未然に防ぐことができます。
Q4. 完全に1週間ジムを休む「完全休養」でも大丈夫ですか?
A4. 可能ですが、パワーリフターには「アクティブ・ディロード」がより適しています。 完全休養にすると、高重量を扱う際の「バーベルの重さの感覚」や「動作の連動性」が鈍ってしまう(デスキル現象)ことがあるからです。重量を50%程度に落としてフォームを確認する程度に動いたほうが、ディロード明けのパフォーマンス復帰がスムーズになります。
Q5. ディロード中にサプリメントは変えるべきですか?
A5. 基本的には通常通りで問題ありませんが、クレアチンやマルチビタミンは継続しましょう。 身体の修復プロセスを止めないために、タンパク質(プロテイン)や微量栄養素の摂取は維持してください。一方で、プレワークアウトサプリメント(カフェイン等)の使用を控えることで、中枢神経系を刺激から解放し、カフェイン耐性をリセットする良い機会にすることができます。
まとめ
ディロードは「サボり」ではなく、「強くなるための攻めの休息」です。
自分の身体の声を聴き、計画的にディロードを取り入れることで、怪我を防ぎながら長期的に記録を伸ばし続けることができます。
