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リカバリーの流れ
パワーリフティングは検量から試技開始までが約2時間と短いため、いかに効率よく回復するかが勝敗を分けます。
- 直後の水分・電解質補給
検量が終わったら、まず経口補水液や電解質(イオン)を多く含むスポーツドリンクを飲みます。
水抜き後の体は塩分(ナトリウム)が枯渇しているため、ただの水を飲むと吸収効率が悪く、体外に排出されやすいためです。
なお、がぶ飲みはせず、500ml〜1ℓ程度をゆっくりと摂取します。 - 糖質の補給
水分を摂取して20〜30分後、胃腸が落ち着いたら、消化吸収の早い糖質を摂取します。
例:バナナ、おにぎり、カステラ、ゼリー飲料、ブドウ糖など - 試合開始までの補給
試技開始までの間に、計画的に水分と糖質を摂り続けます。
リカバリーで摂取する水分量の目安は、「体重1kgあたり30ml + 水抜きで落とした水分量」と言われています。
例:検量体重83kgで3kg落とした場合、(83kg × 0.03ℓ) + 3ℓ = 約5.5ℓ
この量を試合開始までに計画的に飲み切るイメージです。
水分摂取の注意点
リカバリー時の水分摂取は、可能な限り、「すべて」を経口補水液や電解質(イオン)を多く含むスポーツドリンクで摂取することが理想的かつ最も安全です。
安易に普通の水に切り替えるべきではありません。
その理由と、より具体的な戦略について解説します。
なぜ普通の水だけではダメなのか?
水抜き後の体は、ただ水分が枯渇しているだけでなく、塩分(ナトリウム)をはじめとする電解質も一緒に排出され、極度に不足した状態です。
この状態で、電解質を含まない「普通の水」だけを大量に飲むと、以下のような非常に非効率で危険な事態を招く可能性があります。
- 吸収効率が悪い
- 腸が水分を吸収する際には、ナトリウム(塩分)がポンプのような役割を果たします。体内のナトリウム濃度が低いと、このポンプの働きが鈍くなり、飲んだ水がうまく体に吸収されず、胃に溜まってしまったり、すぐに尿として排出されてしまったりします。
- パフォーマンス低下と筋肉の痙攣(けいれん)
- ナトリウムやカリウムといった電解質は、筋肉が正常に収縮するための神経伝達に不可欠です。これらが不足したまま水分だけを摂ると、筋肉が「つる」原因になります。試技中に足や背中がつってしまっては、最高のパフォーマンスは発揮できません。
- 低ナトリウム血症(水中毒)のリスク
- 最も危険なのがこの状態です。体内のナトリウム濃度が極端に低い状態で大量の真水を飲むと、血液がさらに薄まってしまいます。これにより、頭痛、吐き気、めまい、意識障害などを引き起こす可能性があり、非常に危険です。簡単に言うと、水抜き後の体は「塩分を欲しているカラカラのスポンジ」です。塩分という接着剤なしに水だけを注いでも、水分は素通りしてしまうのです。
検量後の最適な水分補給戦略
以上の理由から、試合開始までの約2時間という短時間で体を回復させるためには、以下の戦略を推奨します。
方法1:【最善の戦略】すべて電解質ドリンクで補給する
- 検量直後
- まず経口補水液(OS-1など)を500ml〜1ℓ、ゆっくりと飲み干します。これが最も吸収が早く、体の回復のスイッチを入れてくれます。
- その後〜試合開始まで
- 計画している残りの水分量(も、すべてスポーツドリンク(ポカリスエット、アクエリアスなど)で摂取し続けます。
上記のメリットは、体が常に水分と電解質を効率よく吸収できる状態を維持でき、回復を最大化できることです。
デメリットとしては、コストがかかることと、甘さで飽きてしまう可能性があることです。
方法2:【次善の戦略】電解質ドリンクをメインに、水を少量混ぜる
もし、スポーツドリンクの味が濃すぎると感じたり、どうしても大量に飲むのが辛い場合は、スポーツドリンクと水を混ぜて少し薄めるという方法があります。
比率の目安は、スポーツドリンク2:水1 くらいの比率が限界です。
これ以上薄めると、電解質濃度が下がりすぎて吸収効率が落ちてしまいます。
なお、この方法でも、検量直後の最初の1ℓは原液の経口補水液やスポーツドリンクを飲むことが重要です。
薄めるのは、その後の補給からにしましょう。
やってはいけない方法
- 経口補水液を1ℓを飲んだ後、「あとは普通の水でいいや」と切り替えてしまうこと
- 最初から水をがぶ飲みしてしまうこと
パワーリフティングの検量から試合開始までの約2時間は、非常に短く、回復のための時間的猶予がありません。
その貴重な時間で最大の回復効果を得るためには、「摂取する水分は、原則すべて電解質を含むものにする」と考えてください。
普通の水は、あくまで補助的なものか、スポーツドリンクを少し薄めるために使う程度に留めるのが、安全かつ効果的なリカバリーのカギとなります。
リカバリーのための食事について
検量後のリカバリーで何を食べるかは、試合のパフォーマンスを大きく左右する非常に重要な要素です。
検量後リカバリー食の三大原則
まず、この時間帯に食べるものを選ぶ上での大原則を再確認します。
- 消化吸収が速いこと
- 約2時間という短時間で筋肉にエネルギー(グリコーゲン)を届けたいので、高GI(グリセミック・インデックス)の炭水化物が中心となります。
- 脂質と食物繊維が少ないこと
- 脂質と食物繊維は消化を遅らせ、胃もたれや腹部の膨満感の原因になります。これらは徹底的に避けるべきです。
- 食べ慣れていること
- 大会当日に初めて食べるものは避けましょう。消化不良など、予期せぬトラブルの原因になります。
良いリカバリー食・悪いリカバリー食
ライスケーキ:【非常に推奨】
評価
水抜き前の食事と同様に、検量後のリカバリー食としても極めて優れた選択肢です。
理由
- 速効性の炭水化物
- 原料は白米であり、消化吸収が非常に速いです。
- 低脂質・低食物繊維
- プレーンなものは、ほぼ炭水化物のみで構成されています。
- 食べやすさ
- はちみつやジャムを塗ることで、純粋な糖質を追加でき、飽きずに食べられます。水分が少ないため、スポーツドリンクと一緒に摂取するのに最適です。
パスタ:【非推奨】
評価
リカバリー食としては不向きです。
理由:
- 消化が比較的遅い
- パスタの主成分であるデュラム小麦は、同じ炭水化物でも白米やパンに比べてGI値が低く、血糖値の上昇が緩やかです。これは普段の食事ではメリットですが、「素早いエネルギー補給」が求められるこの場面ではデメリットになります。
- 消化の負担
- ある程度の量を食べないと十分な糖質を確保できず、胃腸への負担が大きくなる可能性があります。
- 調理と携帯性: 事前に調理が必要で、冷めると食べにくいなど、大会会場での食事としては現実的ではありません。
和菓子:【非常に推奨】
評価
最高のリカバリー食の一つと言えます。
多くの日本人リフターが活用しています。
理由
和菓子の多くは「米、小豆、砂糖」という、まさにリカバリーに最適な材料で作られています。
- 大福、おはぎ、団子
- 餅米やうるち米がベースで、あんこは砂糖と小豆(炭水化物)からできており、速効性のエネルギー源として完璧です。脂質もほとんど含みません。
- どら焼き、まんじゅう
- 小麦粉と砂糖の皮であんこを包んだもので、カステラと同様に理想的な糖質源です。
- 羊羹(ようかん)
- 「あんこと砂糖の塊」であり、携帯性に優れ、少量で高カロリー・高糖質を摂取できるため、非常に人気があります。
みたらし団子のタレには醤油(塩分)が含まれます。電解質ドリンクで塩分を管理している場合は、あんこやきな粉の団子の方がベターです。
その他のおすすめリカバリー食
以下のものも選択肢として有効です。
カテゴリー | 具体例 | 特徴 |
果物 | 完熟バナナ、レーズン、デーツ(なつめやし) | 果糖とブドウ糖が豊富で吸収が速い。 特にドライフルーツは少量で多くの糖質を摂れる。 |
パン・シリアル | 白いパン(食パン、ロールパン)にハチミツやジャム、コーンフレーク(プレーンなもの) | 小麦粉ベースの速効性糖質。 菓子パンは脂質が多いのでNG。 |
スナック類 | プレッツェル(塩味)、クラッカー | 意外な選択肢ですが、プレッツェルは脂質が少なく、炭水化物が主成分。 塩味のものは失われたナトリウム補給にも役立つ。 |
飲料・ゼリー | フルーツジュース(果汁100%)、マルトデキストリンパウダー | 固形物を受け付けない時に最適。 マルトデキストリンは吸収の速い粉末状の糖質で、スポーツドリンクに溶かして飲むことができる。 |
お菓子類 | グミ、ラムネ、飴 | ほぼ砂糖そのものであり、血糖値を素早く上げるのに役立つ。固形物を食べる合間に口にするのも良い。 |
まとめ:自分だけの「リカバリーセット」を準備しよう
検量後の2時間はあっという間です。
当日になって「何を食べようか」と迷う時間はありません。
事前のトレーニング後などに色々な食品を試し、自分の体質に合い、消化が良く、かつエネルギーが湧いてくる感覚のある「勝ち飯」の組み合わせを見つけておくことが重要です。
リカバリーセットの準備例
- 検量直後(最初の30分)
- 経口補水液 500ml
- 第1食事(30分〜1時間後)
- スポーツドリンクを飲みながら、大福1個とバナナ1本
- 第2食事(1時間〜1時間半後)
- スポーツドリンクを飲みながら、ライスケーキ2枚にはちみつを塗ったものと、ゼリー飲料
- 試技直前
- ラムネやグミを数個口に入れる このように、事前に計画を立て、必要なものを全て準備して大会に臨むことが、成功の鍵となります。